慶應義塾大学病院血液浄化・透析センター

basic-research

〒160-8582 東京都新宿区信濃町35

お問い合わせ03-3353-1211(代表)

基礎研究 basic-research

 

 

血液浄化・透析センターにおける基礎研究

分子生物学的な手法を中心に、遺伝子改変動物や培養細胞を用いて、腎臓・心臓・血管病変の形成・進行のメカニズムを研究しています。
以下に研究内容を簡単に紹介します。

1.動脈硬化症の発症・進展における血管平滑筋の形質変換の役割

1-1. 血管平滑筋における転写調節メカニズム

血管平滑筋細胞は、血管内皮細胞とともに血管を構成する主要な細胞です。健康な状態では、血管平滑筋細胞にはSM α-actin、SM-myosin heavy chain、SM22αなどといった平滑筋に特異的な分子群が発現することで、いわゆる「収縮型」の平滑筋として血管の恒常性維持に働いていますが、動脈硬化のみられる部位では、それら分子の発現が低下し、「増殖型」となったり、「分泌型」となったりすることで病変の発症・進行に関与します。

我々は、平滑筋に特異的な分子群の発現を調節するメカニズムの破綻が血管病変を引き起こすのではないかと考え、その転写調節メカニズムの解明を行っています。これまでに明らかになった調節因子には、正の調節因子としてmyocardin(Circ Res, 2003, 92: 856-864)やPitx2(J Cell Biol, 2008, 181: 461-473)、負の調節因子としてKLF4(Circ Res, 2008, 102: 1548-1557)やNF-κB(J Am Heart Assoc, 2013, 2: e000230)などがあります。

実際に、それら調節因子の遺伝子改変マウスを作製してみると、平滑筋に特異的な分子群の発現が変化するのみならず、細胞増殖や細胞外マトリックスの分泌に異常が出現して血管病変が過剰となったり、あるいは減弱することが判明しました。

KLF4を欠損するマウスでは、内腔が過剰に狭窄する動脈硬化が認められた
(Circ Res, 2008, 102: 1548-1557より改変のうえ転載)。

1-2. 血管平滑筋の形質変換と血管石灰化

血液浄化・透析センターには、慢性腎不全のために血液透析を必要とする患者さんが数多くいらっしゃいます。慢性腎不全や糖尿病における動脈硬化症は、脂質異常症などでみられるタイプとは異なり、メンケベルグ型と呼ばれる血管石灰化を主体とした病変です。

最近の研究では、血管平滑筋細胞が骨の性質をもつ骨様細胞に形質変換することで、石灰化が出現してくることが分かってきました。我々も、リンの過剰負荷が血管平滑筋細胞を骨様細胞に形質変換することで石灰化を進行させること、さらにそのプロセスには転写因子KLF4が関与することを報告しました(J Biol Chem, 2012, 287: 25706-25714)。

一方、血管石灰化にはリンだけでなく、様々な要因が影響しているものと考えられています。リンに加えて、ブドウ糖濃度が血管石灰化にどのように影響しているか(J Vasc Res, 2013, 50: 512-520)や、慢性炎症が与える影響なども現在研究しています。

腎不全ラットにみられる血管石灰化病変。
石灰化を黒褐色に染めるvon Kossa染色を行ったところ、腎不全ラットの平滑筋層には石灰化が認められた
(J Biol Chem, 2012, 287: 25706-25714より改変のうえ転載)。

2. 転写因子KLF4と心臓・腎臓・血管疾患

上述のように転写因子KLF4は、内膜が肥厚して血管が狭窄するタイプの動脈硬化や、血管が石灰化するタイプの動脈硬化に重要な役割を果たします。さらに我々は、KLF4が心臓や血管内皮細胞にも発現しており(J Biol Chem, 2010, 285: 21175-21184)、心肥大や急性腎障害といった病態に関与することを見出しました。

心臓ではアドレナリンの過剰刺激があった場合、成熟心筋細胞が胎児型へと変化し、心肥大が引き起こされます。KLF4は、この胎児型心筋細胞への変化に対して抑制的に働きます。KLF4を欠損させた遺伝子改変マウスでは、心肥大が過剰となることが明らかとなりました(J Biol Chem, 2014, 289: 26107-26118)。

頚動脈や腎臓に存在する血管内皮細胞では、KLF4は炎症刺激を抑える働きを行います。炎症刺激を抑制することで細胞接着因子の発現を調節し、マクロファージなど炎症細胞の血管への動員を減少させます(J Am Heart Assoc, 2014, 3: e000622;J Am Soc Nephrol, 2016, 27: 1379-1388)。このようにKLF4は心臓、腎臓、血管疾患の発症・進展に重要な役割を担う転写因子であり、魅力的な治療標的分子であると考えられます。

心筋特異的KLF4欠損マウスでは、アドレナリン刺激による心肥大反応が過剰となった
(J Biol Chem, 2014, 289: 26107-26118より改変のうえ転載)。

3. 水素ガスによる腎臓疾患治療の可能性

最近、水素ガスが注目を集めています。様々な病気の発症に、過剰な活性酸素の産生が関与していることが知られています。水素ガスは活性酸素を取り除くことで、病気の程度を抑えてくれる可能性があります。我々は、造影剤による腎障害に水素ガスが効果があるかどうか検討しました。ラットに水素ガスを吸入させておくと造影剤による急性腎障害は軽減され、腎臓においても活性酸素のマーカーが低減することが判明しました(Nephron Exp Nephrol, 2014, 128: 116-122)。今後、臨床研究に結び付けられるように研究を進めています。

4. 最近の論文リスト

論文リスト
  • Yoshida T, Yamashita M, Hayashi M. Krüppel-like factor 4 contributes to high phosphate-induced phenotypic switching of vascular smooth muscle cells into osteogenic cells. Journal of Biological Chemistry. 287: 25706-25714, 2012.
  • Yoshida T, Yamashita M, Horimai C, Hayashi M. Smooth muscle-selective inhibition of nuclear factor-κB attenuates smooth muscle phenotypic switching and neointima formation following vascular injury. Journal of the American Heart Association. 2: e000230, 2013.
  • Yoshida T, Yamashita M, Horimai C, Hayashi M. High glucose concentration does not modulate the formation of arterial medial calcification in experimental uremic rats. . Journal of Vascular Research. 50: 512-520, 2013.
  • Yoshida T, Yamashita M, Horimai C, Hayashi M. Deletion of Krüppel-like factor 4 in endothelial and hematopoietic cells enhances neointimal formation following vascular injury. Journal of the American Heart Association. 3: e000622, 2014.
  • Yoshida T, Hayashi M. Role of Krüppel-like factor 4 and its binding proteins in vascular disease. Journal of Atherosclerosis and Thrombosis. 21: 402-413, 2014.
  • Yoshida T, Yamashita M, Horimai C, Hayashi M. Kruppel-like factor 4 protein regulates isoproterenol-induced cardiac hypertrophy by modulating myocardin expression and activity. Journal of Biological Chemistry. 289: 26107-26118, 2014.
  • Homma K*, Yoshida T*, Yamashita M, Hayashida K, Hayashi M, Hori S. Inhalation of hydrogen gas is beneficial for preventing contrast-induced acute kidney injury in rats. Nephron Experimental Nephrology. 128: 116-122, 2014. (* denotes co-first author.)
  • Yoshida T, Yamashita M, Iwai M, Hayashi M. Endothelial Krüppel-like factor 4 mediates the protective effects of statins against ischemic AKI. Journal of the American Society of Nephrology. 27: 1379-1388, 2016.
  • Yamashita M, Yoshida T, Suzuki S, Homma K, Hayashi M. Podocyte-specific NF-κB inhibition ameliorates proteinuria in adriamycin-induced nephropathy in mice. Clinical and Experimental Nephrology. 21: 16-21, 2017.
  • Yoshida T, Hayashi M. Pleiotropic effects of statins on acute kidney injury: involvement of Krüppel-like factor 4. Clinical and Experimental Nephrology. 21: 175-181, 2017.
  • Yoshida T, Yamashita M, Horimai C, Hayashi M. Smooth muscle-selective nuclear factor-κB inhibition reduces phosphate-induced arterial medial calcification in mice with chornic kidney disease. Journal of the American Heart Association. 6: e007248, 2017.
  • Morita S, Shinoda K, Yoshida T, Shimoda M, Kanno Y, Mizuno R, Kono H, Asanuma H, Nakagawa K, Umezawa K, Oya M. Dehydroxymethylepoxyquinomicin, a novel nuclear factor-κB inhibitor, prevents the development of cyclosporine A nephrotoxicity in a rat model. BMC Pharmacology and Toxicology. 21: 60, 2020.

慶應義塾大学病院血液浄化・透析センター

160-8582
東京都新宿区信濃町35

  • JR中央・総武線線「信濃町駅」より徒歩1分。駐車場あり。

  • お問い合わせ03-3353-1211(代表)

診療時間
【休診日 : 日曜日・祝日・第1・3土曜日

 

 

外来担当表はこちら